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元町映画館☆特集

東京・下北沢を舞台にした群像劇『街の上で』

東京・下北沢を舞台に古着屋で働く青年と4人のヒロイン。そして街で暮らす人々との交流を描く群像劇。

(c)「街の上で」フィルムパートナーズ
(c)「街の上で」フィルムパートナーズ
2020年公開予定が、新型コロナウイルスにより上映延期。そして2021年、ついに当館でも公開が始まる『街の上で』。東京・下北沢を舞台に古着屋で働く青年と4人のヒロイン。そして街で暮らす人々との交流を描く群像劇。

いやぁ良いですわ。なんてたって心地よい。

『愛がなんだ』や『あの頃。』など話題作が続く今泉力哉監督がつくる世界は映画が僕たちの暮らす世界と地続きで起こっていることを想起させる。『街の上で』もそうだ。『サッドティー』ではなぜか憎めない男女関係を描き、『愛がなんだ』でも絶妙な友達、距離感の男女を描く。「あんな人って自分の生活圏内にいるんよね」と思わせてくれる。

本作の主人公、荒川青は古着屋で働いている。たまにお店に出たり、ライブに行ったり、ラーメン食べたり、お茶したりと、「どこにでもいそう」な青年だ。そんな彼に自主映画への出演依頼が舞い込む。そこからガラッと変わることを期待してしまいそうだが、本作はそうならない。でもそれが良い。

彼にとって、映画出演が劇的な変化なのかもしれないが、そう大きくことは進まない。停滞しながらもちょっと起伏が起こるくらい。その盛り上がりが絶妙だ。どちらかというと奥手な青の周りにいる大人も魅力的な人ばかり。誰も的確なアドバイスをする訳でもない、話を聞く。それに応えるだけ。神戸のバーとかにもでありそうな雰囲気。でもそれが良い。そのシーンを観るたびに、自分もそんな感じなのだろうか。ただ話を聞いてもらいたいだけ。ちょっと恥ずかしくなった。

4人のヒロインも本当に魅力的だ。別れを切り出す彼女、古本屋の店員。自主映画監督、その撮影現場にいるスタッフ。青にとっては近い存在から、いきなり現れた「運命の人」まで様々。
観ている我々の何人かは「これはドラマが始まる」と、期待するだろうが、結果はどうなるか。多様なヒロインを見て、どの立場からこの映画、青を眺めるかも楽しみ方の一つになるだろう。

そして最後に何といっても、舞台となった東京・下北沢が魅力的だ。あくまで青の日常を描いた本作だが、どこにでもある日常が作品に彩りを添えている。下北沢が出す、雰囲気だろうか。陽の当たり方や、どちらかというと暖色系のお店の持つ色合いなのだろうか、全体的に優しい印象を私は持った。ライブハウスもあれば、古書店、ラーメン屋。どれをとっても足を運んでみたくなる。そしてその場所一つ一つが街の一部になっている。何も起こっていないのに、そこには確かに人がいて、呼吸をして、暮らしている。そのどれもがこの世で一つしかないことなのに、僕たちは見逃している。そこに焦点を当てた本作は今後の日本映画の一個の指標になってくるんじゃないか。

「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」。

2021年必見の邦画です。自分の好きな街の映画館で本作をご覧ください。
街の上で
(監督:今泉力哉/2019年/日本/カラー/130分/ヨーロピアン・ビスタ/モノラル)

上映スケジュール
5/1(土)-5/7(金) 19:20~
5/8(土)-5/14(金) 15:30~