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元町映画館☆特集

『きこえなかったあの日』

2011年3月11日。あの日、起こったことはたくさんの人が知っている。聞こえていたことは多くの人が知りたがった。

2011年3月11日。あの日、起こったことはたくさんの人が知っている。
聞こえていたことは多くの人が知りたがった。

でも一方で当時、聞こえなかった人がいた事実をご存知だろうか。私は「いるだろう」とは思っていたが知ることをしなかった。この映画はそんな「聞こえなかった人」に焦点を当てたドキュメンタリー映画だ。

『きこえなかったあの日』
東日本大震災が起こったあの日。被災ろう者たちに何が起こっていたのか。自身もろう者である今村彩子監督が被災地に出向き、ろう者との10年間を記録したドキュメンタリー。

震災により、多くの関連ドキュメンタリー映画が制作されたが、本作は主に人に焦点を当てている。ろう者に起こったできごとにより、手話言語条例という決まりごとも制定、現在も日本全国で制定活動が進んでいる。

私はそれを知らなかった。
本作を通し、知ることができて良かった。

映画の中では驚きのシーンが続く。冒頭、今村監督が被災地を訪れている最中に余震が起こる。なかなの揺れ。映る人々は声を出している最中、電柱が揺れているのを見て、かなりの規模だと想像できる。でも周りにいる人々の「危険だ、危ない、揺れてるぞ」という声は映っている人には聞こえていない。でも私には聞こえている。

震災当時、何度も揺れの映像や、中継のアナウンサーが「危ないから、避難してください」と連呼していたあの「声」は聞こえていたのに。映画の中の人々には聞こえなかった。それがどれだけのことか。

劇中に出てくる独り身の方やご夫婦の方は震災当時、サイレンや避難放送がなっていることに気がつかず、近所の方の誘導で助かったという。「映像を見ることはできるが、何を言っているか分からない」。私はハッとした。当たり前だけど、見ないようにしていたのかもしれない。その現実を。

映画はそんな当時のこと、そして10年の間に被災地、被災者、支援者の声も届ける。手話言語条例をはじめ、熊本地震や西日本災害豪雨で活躍するろう者のボランティアの姿も見ることができる。各メディアではみることができない、言葉や立ち振る舞い。活動する人の元気な姿を映画ではみることができる。常に前を向いて作業している。それを見て、何を考えるか。私は現実を知らないことを恥じるよりも知れてよかった、それを広めていこうという気持ちがおこった。

何よりこの作品は今村監督しか撮れないだろう。
ろう者にとって、何が必要か。被災者のプライペートに踏み込まず、過去と今とを切り離さずに記録されていく。

そして監督は本作について、以下のように語っている。
「今まで見ようとしなかった映像を見直してみると、そこには確かに生活の「かけら」が映っていて、一人ひとりの「生」が輝いて伝わってきました。
(参照 映画公式サイトより)

試行錯誤しながらも自分と被災者の間に生まれる何かを表現している。それがこれからどう育っていくのか。カメラの中の証言は、これからの10年、20年にどう活かされていくのか。これはろう者とろう者に向けた映画ではなく、これからを生きる上で必要なことが描かれている史実だ。一人でも多くの方にこの作品が届けられることを願う。v
きこえなかったあの日
(監督:今村彩子/2021年/日本/116分)

上映スケジュール
4/17(土)~4/23(金) 14:50より
4/24(土)~4/30(金) 10:30より