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元町映画館☆特集

作家、本当のJ.T.リロイ

女装の男娼となった過去を綴った「サラ、神に背いた少年」で時代の寵児となった天才美少年作家

たった一つの嘘が多くの人を巻き込み、のちの人生さえも左右してしまうとは。そして私はこのJ.T.リロイという人物を全く知らなかったですが本当に楽しめた。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもので登場人物の本音が後半にかけて現れてくる、それだけで見てよかった。


本作はこんなお話。
1996年に突如文壇に現れたた天才美少年作家、J.T.リロイ。彼は女装の男娼となった過去を綴った「サラ、神に背いた少年」で時代の寵児となった。その才能が認められあの映画監督のガス・ヴァン・サントの『エレファント』の脚本を共同執筆。そしてカンヌ国際映画祭で見事パルムドールを受賞。その名は世界に轟く。その後も執筆依頼が絶えない彼だったが、2006年ニューヨーク・タイムスの暴露記事によって事態は一変するのだった…。天才少年J.T.リロイという人物は存在せず、その正体はサンフランシスコ在住の40歳女性という女性。そう、男性でもなく女性だったのだ。本作ではその事件の真相は「ローラ・アルバート」本人の口から語られる…。


2時間の間に天国から地獄へ落ちたような気分だ。彼と彼女は誰かに迷惑をかけたのかと考えた、いやかけていない。周りが彼の才能を認めてトップまで登り詰めていた。昨年ミニシアターで大ヒットした『FAKE』(監督:森達也)を見ているようだ。才能はあるのに打ち出し方を間違えるだけで嘘がばれた時にはもう手遅れ。何を言っても悪者。褒めていたメディアが手のひら返しで一斉に叩いている時、ローラは何を考えていたのだろう。


興味深かったのはJ.T.リロイ自身が中心となった作品が映画祭で上映されて作品を見た観客からスタンディングオベーション受けるシーン。J.T.リロイは泣き崩れ、スタッフとして映画祭にすら入れなかったローラは不満を持つ。「なぜ、私がここにいるのだろうか」と。本作の中で最も二人の感情が映像に現れた瞬間がグッときた。天才も一人の人間なのだと。


その後は嘘がばれてバッシングの嵐。ちょっと「かわいそう」と思うくらい。10年間もの間、世間に話題を提供し続けて来た功績は無視だから余計にこちらも見ているのが苦しくなる。人を感動させるには何かを犠牲にしているものだと改めて思う。彼と彼女はただ自分の経験談を世の中に伝えたかっただけ、表現者として成功よりも、単純な「何かを伝えたい」が先行しすぎた結果なんだろうなと思う。これは誰にでも起こりうることだろうなと。「嘘ついたけど、みんな感動してたやん」と二人には開きなおるくらいのコメントが映画であればもっと好きになっていたかもしれない。「ファンがいた」ことは事実なのだから。


あと人気者に群がるいわゆる「金の亡者」みたいなやつは本当、どこにでもいるんだなと感じた作品。表現者、芸術で生きていこうと思う人は必見のドキュメンタリー映画です!

作家、本当のJ.T.リロイ
上映スケジュール
7/29(土)~8/4(金)
15:20~
8/5(土)~8/11(金)
20:10~