地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、神戸の地域情報サイト「まいぷれ」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

神戸の地域情報サイト「まいぷれ」

元町映画館☆特集

人生タクシー

ものづくりに関わるすべての人に送る人生賛歌『人生タクシー』

タイトル『人生タクシー』。なんて仰々しい名前だ。そんなことはありません。これは本作のイラン人映画監督ジャファル・パナヒが送る「生きるってこういうことだね。しんどいこともあるけどたまに良いことあるよね」と応援してくれるそんな作品です。


本作はこんなお話
イランのテヘランを走る一台のタクシー。運転手の名前はジャファル・パナヒ。本作の監督だ。そんな彼が運転するタクシーに乗りこむお客たち。一儲けを企む海賊版レンタルビデオ業者、監督志望でずっとカメラを回す大学生、金魚鉢を抱えて急ぐ老婆。みんな悩みを抱えてタクシーに乗り込んでくる。カメラはタクシーに搭載の車載カメラのみ。その小さなカメラを通してこの個性豊かな乗客の姿からイラン社会の核心が見え隠れする。


パナヒ監督は実はイラン社会に挑戦するような映画を撮影し続けていたため政府から「20年間の映画禁止令」を受けながらも本作を作りあげた強者だ。そんな状況の中で本作を作り、世界三大映画祭の一つ「ベルリン国際映画祭」でNo.1の金熊賞を受賞した。


ただタクシー内で起こるできごとを「はい、どうぞ」とお茶菓子を出すようにさらっと作り上げたように見える作品だ。面白くないと言ってるわけじゃない。


この淡白さを作りあげること自体がすごいのだ。


CGもない、見せ場もない、黄色い悲鳴を浴びるアイドルも出てこない。しかし映画に出てくる人物たちは私たちが生活していれば遭遇するような人たちばかりだ。共感しないわけがない。


映画を作りたいという大学生との会話劇は「この娘、どんだけしゃべるねん」とツッコミたくなる。しかも名匠であるパナヒ監督に自分の映画論をぶちまける。


いや、相手は世界の映画祭で上映されるすごい人だよって教えたくなる。若さってすごい。パナヒも負けじと持論を展開するがデジカメを持ったこの娘に恐れるものなど何もなし。若いってブランド。


しかしこの二人の出会いがラストシーンを豊かなものにする。一場面だけでイラン社会が抱える矛盾や世間とのズレを表現してしまうパナヒ監督にはすごいの一言だ。そう、今までの乗客とのからみは全てここに落ち着くための布石だったのかと。


ここまできてこの映画はドキュメント?劇映画なの?と疑問に思うかもしれないが、私も未だにわからない。でも100%理解することよりも「あれ、どういうことなんだろうか」と想像するだけで面白い。タクシー内でのやり取りだけで人間の思考をフルに活用させるこの技量。生きている間に一度は味わってほしいパナヒ監督の世界を。


パナヒ監督は「監督禁止令」の中、これだけのものを作りあげた。ましてタクシーの中だけで。この映画は作り手へのラブレターでもあるが一方で「映画には作り手がいる」という絶対的なことを私たちに改めて提示した作品であると言えるだろう。

『人生タクシー』
上映スケジュール
5/27(土)~6/2(金)
14:50~
6/3(土)~6/9(金)
12:50~
公式サイト
http://jinsei-taxi.jp/